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松江地方裁判所 昭和38年(リ)1号 判決 1965年4月19日

原告 山陰ナシヨナル製品販売株式会社

被告 出雲税務署長

訴訟代理人 川本権裕 外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一(一)  原告会社は被告に対し昭和三五年下期営業年度(昭和三五年五月二一日から同年一一月二〇日までの間)分法人税に関し

所得金額     九三五万五、一〇〇円

法人税額     三四五万九、二〇〇円

として確定申告をなしたこと

(二)  ところが、被告は右確定申告に対し昭和三七年四月一四日付第一八号をもつて

所得金額    一四三五万四、九〇〇円

法人税額     五三五万九、一三〇円

の更正処分をなしたこと

(三)  そこで、原告会社は右更正処分を不服として同年五月一二日広島国税局長に対し

所得金額    一〇五九万〇、四〇〇円

法人税額     三九二万八、六一〇円

として再審査請求をなしたが、右国税局長は同三八年五月一

一日付広協第四三〇号をもつて

所得金額    一〇八〇万〇、五五〇円

法人税額     四〇〇万八、四五〇円

とする旨の審査決定をなしたこと

(四)  なお、右審査決定の所得金額算出の根拠は次のとおりであること

(A)  決算利益金     九五一万五、七三五円

(B)  益金加算の部

I 損金計上地方税  四万九、五三〇円

II 減価償却超過額      六二〇円

III  過納事業税     八、五一〇円

IV 立替国定資産税    九、四七〇円

V 役員賞与    二四万一、六〇〇円

(但し、そのうち三万一、六〇〇円については原告会社取締役訴外近藤信治外に対する賞与金として原告が自ら益金に加算して申告したものであつて被告はこれを認容した)

VI 債権償却引当金繰入超過額

一〇六万八、四九七円

VII  認定損事業税  一万一、九七〇円

VIII 所得税控除額  四万五、七三一円

小計      一四三万五、九二八円

(C)益金より減算の都

I 減価償却超過額の当期認容額四、〇七八円

II 過納法人税認容         三〇円

III  認定損末払事業税  四万三、九〇〇円

IV 前期価格変動準備金繰入超過額認容

一〇万三、一〇五円

小計         一五万一、一一三円

差引当期所得金額     一、〇八〇万〇、五五〇円

以上の事実については当事者間に争いがない。

二、そこで原告会社の本件係争年度の事業所得について考えてみるに

(一)  まず、前記審査決定の所得金額算出の根拠中(B)益金加算の部については、V役員賞与の二四万一、六〇〇円のうち但書以外の二一万円を除いた部分(原告会社取締役訴外近藤信治外に支給した三万一、六〇〇円)及びその他の各項目と金額並びに(C)益金より減算の部については、その各項目と金額につきいずれとも当事者間に争いがない。

(二)  右争いのある二一万円につき原告会社は(A)の決算利益金算出の前提となる損金として計上すべき旨主張するので以下判断する。

(1)  訴外野村常一が本件係争事業年度に原告会社の取締役として登記されていたことは当事者間に争いがない。

(2)  原本の存在及び成立につき争いのない乙第一号証、同第三号証の四、同第四号証、証人菅川丈夫の証言によると右二一万円は松下電器から右のように原告会社の取締役である訴外野村常一に昭和三五年上期賞与として支払われたのを、原告会社が本件係争年度内に右松下電器より請求を受け同電器に支払つたことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠は存しない。

(3)  ところで、右のように原告会社が右二万円を負担するに至つた経緯は次のとおりである。

(イ) 原本の存在及び成立について争いのない乙第一号証、証人玉木秀雄の証言によると元来山陰地方には松下電器の製品を販売する代理店が七社あり、これらは互に販売競争をしながら営業をなしていたこと、ところが松下電器よりの呼びかけがありこれら代理店は全部統合することとなり昭和三三年四月二一日営業を廃止して松下電器の系統会社として設立された原告会社に吸収されたこと、その結果原告会社の営業目的は松下電器の取吸う電気機械器具及び自転車並びに同部品の販売、松下電器の特に指定する電気機械器具の販売であり、またその資本金二、五〇〇万円発行株式総数五万株のうちその半数である二万五、〇〇〇株(額面一、二五〇万円)を松下電器において引受けたこと、また右引受に際しては松下電器は廃業した右七社の要望を入れ右株式は総て後配株とし、特に株主総会の決議については営業方針に対する松下電器の専恣を避けるため定款により三分の二以上の賛同を要する旨の規定を承認したことを認めることができ他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(ロ) 原本の存在及び成立につき争いのない乙第一及び第二号証成立につき争いのない甲第八号証及び同第一八号証、証人山本保宏、同菅川丈夫、同玉木秀雄、同山崎宣也の各証言によると、松下電器としては原告会社に対し自己の販売計画に基く自社製品の普及拡売の方法を伝達且つ浸透させるために、自社の従業員である訴外野村常一を原告会社設立と同時に同社の代表権限を持つ取締役として派遣し販売部門を担当させたうえで、昭和三三年五月二一日原告会社との間に松下電器製品代理販売引受契約(甲第一八号証)を締結したこと、右野村は同三五年一一月二〇日まで原告会社に駐在し、代表権を有する常務取締役として右販売部門を担当し、その後同人の取締役としての資格は翌三六年一月一四日原告会社の定時株主総会において再選されなかつたために同月一八日の任期満了により消滅したことを認めることができ他に右認定を覆するに足りる証拠はない。

(ハ) 原本の存在及び成立につき争いのない乙第三号証の一乃至八、同第四号証、証人山本保宏、同菅川丈夫、同玉木秀雄、同山崎宣也の各証言によると原告会社駐在中の右野村に対する給与及び賞与の支給については松下電器と原告会社問の約定によつて、その金額は総て松下電気において決定し、支給方法としては給与は支給決定額のうち右野村の福利厚生費及び源泉徴収額を松下電器において支払つたうえで原告会社に対し、右費用の返済を要求すると同時に右費用を差引いた残額を右野村に支給するよう通知し原告会社において松下電器に対する支払及び野村に対する支給をなす、また賞与は右松下において支給決定額より源泉徴収をなしその残額を直接野村に支給したうえで原告会社において右決定額を松下に支払うように決められたこと、その結果右野村の賃金台帳の整理や源泉徴収の手続は総て松下電器において従前どおり処理されていたこと、前記(二)記載のように本件二一万円を原告会社が松下電器に支払つた理由も、右約定に基き松下電器が決定し支払つた野村の昭和三五年度上期賞与を原告会社に紀いて右松下に支払つたものであることを認めることができ他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(ニ) 証人山本保宏、同菅川丈夫、同玉木秀雄、同山崎宣也の各証言によると右賞与支給額の松下電器より原告会社に対する請求については原告会社と松下電器との間において、両者の各営業成績のいかんによつて右野村の松下電器の従業員としての賞与額と原告会社役員としての賞与額とに当然差が生じ通常松下電器の従業員としての賞与額が高いことが予想されるため、若し原告会社の営業成績が芳しくなく利益が少い場合には原告会社の松下電器に対する野村の賞与額の負担も減額され、更に最悪の場合には全然負担をなさず、拒否することもできる旨の約定および仮に営業利益がないのに右額を負担した場合にはこれを見合うように原告会社と松下電器と商品取引において利益を与えて補充する旨の約定がなされていたことを認めることができ右認定を覆すに足りる証拠はない。

(ホ) 成立に争いのない甲第四、第五、第七号証、証人王木秀雄、同山崎宣也の証言によると原告会社は従来松下電器よりの出向取締役である訴外野村常一に対する支出は報酬(給与及び賞与)として他役員と同じく経理処理されていたが、昭和三四年五月一五日の臨時株主総会において同年六月以降については松下電器に対する費用負担として処理する旨議決され、その後右野村に支給された分は総て経理上原告会社の松下電器に対する労務負担金として処理されることとなり、本件二一万円も松下電器に対する労務負担金として損金に計上処理されたことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(4)  以上の認定事実を綜合すると、原告会社において松下電器に対し労務負担金という名目で本件金二一万円を支払つたのは、野村が原告会社の代表取締役としてその営業に参与したからにほかならないのであり、又右支払いの結果は、野村に所得された昭和三五年度下期賞与金二一万円を出捐したのは松下電器ではなく原告会社であるのと全く同様の経済的結果に帰着するのであるから、原告会社の労務負担金という名目での本件二一万円の支出は、松下電器が野村に対し昭和三五年度下期賞与という名目で金員の支給の決定及び同金員から源泉徴収額を控除した金二一万円の現実の支給をなした上、原告会社が松下電器に対し労務負担金という名目で本件金二一万円を支払つたという支給支払の径路の形式、並びにこれに副つた経理処理の形式にかかわらず、実質的には原告会社の野村に対する役員賞与の支出であると解するのが相当である。そうすると、原告会社の本件金二一万円の支出は、前記(A)の決算利益金算定の前提となる損金のうちに含まれるものではなく、原告会社において同決算利益金のほかに本件金二一万円の支出を可能ならしめた同金額相当の利益があつたということに帰着するから、原告会社の昭和三五年下期営業年度分法人税課税所得金額の算定にあたつては本件金二一万円も加算しなければならい道理である。

なお、成立に争いのない甲第一八号証、証人玉木秀雄の証言によると昭和三三年五月二一日原告会社と松下電器との間に締結された松下電器製品代理販売引受契約(甲第一八号証)については原告会社の役員中訴外野村常一のみが除かれ他は総て右契約の原告会社側の連帯保証人となつていること及び原告会社その営業資金を訴外山陰合同銀行より融資を受けているが原告会社の役員中右野村のみが除かれ他は総て右債務の連帯保証人となつていることが認めることができるが、右野村がかかる他の役員と異なる地位にあるからといつて同人に支払われた右二一万円を原告会社の松下電器に対する労務負担金として損金に計上しなければならない理由は存しない。

三、叙上の事実によれば被告のなした本件更生処分は適法であるから、この取り消しを求める原告の請求は理由がなく、棄却を免れ難い。

よつて、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 五十部一夫 谷清次 山口和男)

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